御岳ひぐらし日記

フェリーグライドインストラクターの工藤が、カヤックのこと、ツーリングのこと、御岳渓谷の日々の出来事、奥多摩の観光情報などを綴ります。

60代からのリバーカヤック ③ダウンリバーのリスク

今回はリバーカヤックのリスク(危険性)についてお話します。日常生活をしていれば、様々な場面で危険なことに遭遇する可能性はあります。散歩中に転べば、運が悪ければ怪我をすることもあるでしょう。山登りは登山者の体力とスキルよりもレベルの高い山に挑戦すれば、リスクも当然高まります。自分の体力や能力に応じたパドリングフィールドを選べば、最低限のリスクでパドリングを楽しむことが出来るでしょう。それでも、リスクは完全にゼロにすることは出来ません。ですので、常に安全には十分気を配りながら楽しむことがとても重要です。

①静水(湖など)で漕ぐ時のリスク

流れのない湖なら安定感のあるリバーカヤックなら絶対安全だと思うかもしれませんが、安全には絶対はありません。湖などで漕ぐ時の注意点とリスクをご説明いたします。

パックラフト・ダッキー・フォールディングカヤック・レクリエーショナルカヤックなど、安定感のあるカヤックであれば、リバーカヤック初心者でも簡単に漕ぐことが出来ます。大きな湖を横断することも容易でしょう。でも、万が一湖の真ん中で何かの拍子に転覆してしまったら、カヤックと一緒に岸まで泳いで戻れるでしょうか。

湖でもライフジャケットは最低限絶対着用して下さい。水を沢山飲んてしまうと人間は沈みます。ライフジャケットを正しく着用していれば頭は水面上に浮かびますので、息は問題なく出来るのでまずは安心ですね。

でも、大きな湖の真ん中で転覆した場合、これからが大変です。ダッキーや一部のパックラフト等空気ものオープンデッキのカヤックは、カヤックを起こしてから這い上がって再び乗り込むことも可能ですが、フォールディングカヤックやレクリエーショナルカヤックで転覆した場合、カヤックのコックビットに水が入ってしまうと一人で起こして再乗艇することはまず無理です。湖岸までカヤックを運びながら泳がなくてはなりません。この動作がどれほど大変かはやってみないと分からないでしょう。1度転覆すると場合によっては1時間も2時間も湖上で泳ぎながら格闘することも考えられます。

この時に怖いのが低体温症です。水温20度以下の冷たい水の中に長時間いると、冷たい水があっという間に体温を奪います。実は湖など静水域での死亡事故のほとんどは低体温症が原因なのです。

安定感のあるリバーカヤックであるからといって油断して、ちょっと水面を覗き込んだりバランスを崩す動作はしないよう気をつけて下さい。アクシデントはちょっとした不注意で起こります。

また、大きな湖は意外と強い風が吹くことが多いです。漕力の弱い初心者パドラーはカヤックが風に流されて岸に戻れなくなってしうことがたまにあります。もっと強風の日はカヤックやパドルが風にあおられて転覆してしまうこともあります。風がちょっと強めの日は湖でのパドリングは控えましょう。

のんびり湖でのパドリングを楽しもうと思っている方も、カヤックを手に入れたら一度岸から2~3mぐらいのところでワザと転覆して岸まで泳ぐ練習を必ずして下さい。カヤックを持って岸まで泳ぐことがいかに大変かを身を以て経験出来ますよ。リスクを知った上で、安全に楽しく漕いで下さい。

➁ホワイトウォーターのダウンリバーのリスク

白波の立つ急流を下るのはスリルがあってとても楽しいですが、ホワイトウォーターにはところどころ危険個所があります。勇気と勢いだけで漕ぐのは自殺行為と言っても過言ではありません。リバーカヤックは転覆してもバイクやスキーのように地面に身体が叩きつけられるような衝撃はありません。スピードも滝落ちのような場合を除けば体感よりは遅いので転覆による怪我のリスクはあまりありません。しかし、人間は水の中では息が出来ません。流れに乗って漕いでいる間は水流の強さをさほど感じなくても、カヤックが一度岩などに引っかかって止まってしまうと、とてつもない水圧を受けてしまうことがあります。川の流れは一定方向から流れ続けるので、顔が水中から出せない状態で強い水圧を受けると水の流れを止めない限り逃れることが出来なくなってしまいます。事故が即、命に係わる事態になってしまいます。ホワイトウォーターで漕ぐにあたっては、危険回避のための知識とスキルをしっかり身に着ける必要がありますので、スクール等でレッスンを受けることをお勧めします。

①危険な場所や危険な場面について知っていること。

ホワイトウォーターの川にはダウンリバーをする際に回避しなくてはならない危険な場所があります。危険な場所や危険な場面に遭遇する状況についてまずは知って下さい。知っていて無茶な行動をする人はそんなにいないでしょう。あとは危険個所に近づかない、危険を回避する行動が出来るように練習あるのみです。

川は生き物です。雨が増えれば水嵩が増し、流れの勢いも速くなります。普段はリスクがほとんどない川も水量によってはとても危険な川になることもあります。ホワイトウォーターを安全にダウンリバーするためには豊富な知識と経験が必要です。このブログで全て説明することは出来ませんが代表的な危険な場所や危険な場面についてご説明いたします。

⑴ストッパー(ホール)

流れが岩の上を乗り越えた後、落ち込んで立て回転の渦が出来る場所です。反転する渦に捕まるとストッパーから出られなくなることもあります。勢いよく漕ぎ下れば問題のないストッパーもありますが、捕まるとなかなか出られないストッパーは回避する必要があります。

ストッパーの中でも一番怖いのは人工物の堰堤です。一度捕捉されると、左右どちらに回避しようとしても延々ストッパーが続いているので脱出が出来ません。ストッパーでの死亡事故のほとんどは堰堤での事故ですので、近づかないようにしましょう。

⑵ブローチング

強い流れの中に岩が点在する場所で、岩の岩の間をすり抜けて漕ぎ下る場面を想像して下さい。上手な人は思い通りのラインで漕げるので危険な目には遭遇しませんが、船先を流れの方向に向けるタイミングが遅すぎると岩と岩の間にカヤックが引っかかってしまいます。そのまま転覆して凄い水圧を受けると、カヤックから脱出することが難しくなります。

ダウンリバー初心者のうちは、自分の乗るカヤックよりも狭い岩と岩の間をすり抜けるようなラインで漕ぐのは自重したほうが良いでしょう。上手なパドラーにとっては安全な場所でも初心者パドラーにとっては命がけの危険な場所になることも多々あります。

⑶アンダーカットロック

強い流れが岩の下に入り込んでいるような場所のことです。多くの場合、強い流れが岩に当たってカーブするところに出来ます。何千年、何万年か分かりませんが増水時に勢いよく水が当たると岩をも砕くっていうことでしょう。

アンダーカットロックになっている岩の手前で運悪く転覆、脱艇してしまうと、身体が岩の下の隙間に入ってしまいます。水圧を受けるとなかなか脱出出来なくなり、最悪の場合は死亡事故が発生してしまいます。

アンダーカットロックになっている岩は水のクッションが少ない等、見分け方もありますが、素人にはなかなか見分けが付きにくいですので、強い流れが岩に当たって急激にカーブするような流れでは岩に近づかないように早めに回避することが大事です。

⑷フットエントラップメント

ホワイトウォーターをダウンリバーすれば何処ででも遭遇する可能性がある危険な場面です。

転覆して泳ぐと慣れない人は本能的に立ちたがります。川の素人は深い川の方が危険で立てる程度の浅い川の方が安全と思ってしまうようですが、立つことが出来る程度の浅さで流れが速い川のほうが全然危険度が高いです。

転覆したあとすぐ立とうとしたところにたまたま足首が引っかかってしまうような障害物があったとします。足首が障害物に引っかかって転倒して背中に水流を受けるとどうなるでしょう。漕いでいるときは気持ちいい流れでも一度止まって水流を受けるとその水圧に驚くことでしょう。そのまま起き上がれなければ水深30cm~50cm程度の川でもあっという間に死亡事故が起きてしまいます。

安全をしっかり見守ってくれる人がいる時に、そこそこ速い流れを歩いてみると分かりますよ。膝下ぐらいの深さでも流れが速いと信じられないぐらいの強い水圧がかかります。

川では転覆したら絶対に直ぐには立とうとしないこと。仰向けになって足を少し上げた状態にします。ライフジャケットを着用していれば安全に浮かぶことが出来ます。急流が暫く続く場合は足を下流に向けたまま、ラッコのポーズで暫く流れましょう。川底が砂や玉砂利で足が引っかかる危険がない場所を確認出来たらもちろん直ぐ立ってかまいません。

➁危険な場所を回避するスキルを持っていること。

ホワイトウォーターを楽しく余裕をもって漕ぐためにはバランス力が必要です。必要以上に緊張して身体に力が入ると、うねりの影響でカヤックが傾くと頭も一緒に傾いであっという間にバランスを崩してしまいます。体幹回りの筋肉を柔らかく使って水をいなせるようになると簡単には転覆しなくなります。

しかし、本格的なホワイトウォーターで漕ぐと、最初のうちは頻繁に転覆します。カヤックから脱出して泳いで岸まで上がる間に更に激しい流れに突入してしまうこともあります。急流ではなかなか思うように泳げずにかなり流されてしまいます。ホワイトウォーターでのダウンリバーをしたい場合はエスキモーロール(転覆してもグルっと起き上がる技)のマスターが必須です。

岩が迫って来てもクィックに方向転換して避けるためのスィープストローク。ストッパーを突破するためには事前にしっかり加速することがとても重要です。力強く真っ直ぐ漕ぐフォワードストロークはダウンリバーに必須のストロークです。漕ぎ方の基本をしっかり身に着けることによって、カヤックをコントロールしながら安全なラインをトレース出来るようになります。

③自分のスキルでは対処出来ない流れでは漕がない(部分的に回避することも含む)判断が出来ること。

パドリングスキルが高く、危険個所を余裕をもって回避して漕げる人にとっては安全な流れでも、安全なラインをトレースして漕ぐことがまだ出来ない(自信のない)人には危険な流れになることも多々あります。先輩パドラーに大丈夫だから行こうよと誘われて、自信がないのに無理して漕いで痛い目にあうなんてことも結構あります。自分のスキルでは無理と感じたら漕がない判断をする勇気がとても大事です。事故にあってから後悔しても遅すぎます。ホワイトウォーターでのリバーカヤックは自らの判断と自己責任が基本です。

今回は安全に十分注意して漕いで頂きたいので、少し脅かすようなブログの内容になってしまいました。でも、リバーカヤックはとても楽しいスポーツです。安全に楽しく漕げるように地道に知識とスキルを身に付けて頂ければと思います。

最初から激流では漕げません。緩やかな流れでの練習から始め少しずつスキルを身に着けていくと、漕ぎ始めた時には考えられなかったような激しい流れを余裕でクリア出来るようになるでしょう。それでも20代、30代のアスリートには出来ても60代のパドラーには出来ないことはあります。自分の体力と身体能力と相談しながら安全に漕げる範囲内の川でパドリングすることをお勧めします。

フェリーグライドのカヤック体験・スクール

カヤック体験は、初めての方でも安心湖での初心者向けカヤック体験です。

カヤックを「もっと上手に漕げるようになりたい」方にお勧めの、カヤックスクール
流れのある川を安全に漕げる様になるためのダウンリバーコース
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