御岳ひぐらし日記

フェリーグライドインストラクターの工藤が、カヤックのこと、ツーリングのこと、御岳渓谷の日々の出来事、奥多摩の観光情報などを綴ります。

奥多摩湖(小河内ダム)の貯水率


満々と水をたたえる奥多摩湖。奥多摩湖畔からの眺めは癒されますが、梅雨のこの時期ほぼ満水の奥多摩湖を見ると私は不安な気持ちになります。

今日の貯水量はおよそ1億7000万㎥。小河内ダムの有効貯水量は1億8540万㎥ですので貯水率は91.7%です。

奥多摩湖は東京都の水不足解消のため昭和の初期に計画された、利水専用のダムです。第二次世界大戦を挟んで工事が進められ、昭和32年に完成。60年以上の間東京都の水需要を支えています。現在は利根川水系のダムが東京の8割の水需要を賄い、残りの2割、特に東京都が水不足に陥った時のためのバックアップの役割を担っているそうです。

今回のブログは少し真面目な話題で長くなりますが、興味のある方は読んで下さい。

ダムにはいろいろな役割がありますが、大きく分けると①利水(水の安定供給のためのため池の役割)②治水(洪水防止のために水を貯める役割)③発電(水力発電で電力を供給する役割)の3つの役割があります。

利水と発電のためには水はなるべく貯めておきたいですが、治水のためにはいざという時に水を貯められるように大きな余裕を持っておきたいです。多目的なダムはその按配を調整するのに苦労をしています。

近年地球温暖化の影響か、従来では考えられないような雨の降り方が多くなっており、治水の在り方を抜本的に見直す必要が迫られています。

昨年の台風19号の時は小河内で降り始めからの総雨量が665mmにも達し、小河内ダムは一時750㎥/秒の放流を行い、御岳小橋は冠水して流されてしまいました。

長野、福島を始め多くの都府県で川が氾濫して大きな被害が出たことはまだ記憶に新しいと思います。

昨日、今日は九州地方で梅雨前線による線状降水帯の影響で短時間に莫大な雨量が記録され、川の氾濫により多くの犠牲者が出てしまいました。

そもそもダムは治水のために役立つのか、様々な議論がなされていますが、貯水率を下げて水を貯める容量を多く確保出来ている時のみ治水のために役立つと言えるのでしょう。

台風19号の時に試験貯水を始めたばかりだった八ッ場ダムは1回の台風の雨で満水にりました。もし、貯水率が80%ぐらいの時に台風が来ていたら、20%の水は貯めたもののあっという間に満水になり80%の水はそのまま下流に放水されたでしょう。

ここで奥多摩湖と小河内ダムについて、少しだけ詳しく説明をさせて頂きます。

小河内ダムは小規模の発電は行っていますが基本的には利水専用(水道用)のダムであり東京都水道局が管理しています。

通常、多目的ダム(利水、治水、発電)では、夏期(梅雨から台風シーズン)は大雨で川が氾濫しないように雨水を貯める容量を確保するために、夏期シーズンに入る前にある程度貯水率を下げ、台風シーズンが一段落する10月ぐらいから貯水率を上げるという運用をしています。

参考(利根川水系の常時満水容量と夏期制限容量)

一方、多摩川水系の小河内ダムは利水専用ダムのため、夏期制限容量の設定がありません。梅雨の後半の大雨が降りやすい時期、台風の時期を前にして、治水の役割がほとんど期待出来ない満水状態となっています。

さらに、オリンピック開催時期に渇水で世界から来られる観光客に迷惑をかけないため「東京2020オリンピック・パラリンピック渇水対策行動計画」という施策が昨年策定され、2019年の春から従来以上に水を貯めているようです。

東京2020オリンピック・パラリンピック渇水対策行動計画

新型コロナウイルスの対策ではないですけれど、オリンピックを優先して治水対策が後手に回ることは絶対あってはいけないと思います。

昨年の台風19号で全国的に大きな水害が発生した反省も踏まえ、利水専用のダムでも台風や大雨が予想される場合は従来よりも事前に放流する判断をしやすくするために、国土交通省は今年の4月に事前放流ガイドラインを策定しました。

事前放流ガイドライン

台風19号の時の小河内ダムの事前放流もあと2日早く始めていれば御岳小橋が流れる水量まで放流しなくて済んだのではと悔やまれますが、次回の大雨からはより良い運用が期待出来るので喜ばしいことです。

ただ、小河内ダムは利水専用のダムとして設計されているため、余水吐き(洪水吐き)の位置が高いです。貯水率85~86%ぐらい以上にならないと余水吐きから一気に放水してダムの貯水率を急速に下げることが出来ない構造になっています。更に貯水率を下げるためには発電放流を最大限に行う運用しかありません。21㎥/秒ぐらいが最大ですので、1日約181万㎥、小河内ダムの総貯水量の1%ぐらいしか発電放流では事前に水を流すことが出来ないのです。

次に、大型台風が奥多摩方面を通過するとどのぐらいの水が奥多摩湖に流れ込むのか、少し考えてみましょう。水文学の専門家でも正しい数字を出すのはとても難しいようですので、あくまでも参考程度として。

奥多摩湖に水が流れ込む流域面積は262.9k㎡。仮にこの流域全体に300mmの大雨が降ったとしましょう。全ての水が奥多摩湖に流れ込んだと仮定すると7887万㎥、実に奥多摩湖の有効貯水量1億8540万㎥の42.5%の水量です。驚きの数字ですが、八ッ場ダムが1度の台風で満水になってしまったことを考えると、強ちあり得ない数字ではないでしょう。

但し、山に降った雨は地中に浸透してから時間を掛けて湖に流れ込んで来ます。大型の台風の後は2週間後ぐらいまで沢からの流れ込みが結構あります。大雨の後の水は1~2週間ぐらいの時間を掛けて流れ込むので、台風時に一気に流入するわけではありません。

但し、300mmの雨量でも3時間で一気に降るような雨の場合は土の中に浸透する間もなく一気に流れますので、湖への流入量も急速に増大します。昨日の熊本の大雨は短時間に集中して降ったため一気に川が増水してしまったことでもわかるでしょう。

梅雨の後半の前線による大雨や近年頻発する大型台風に備えるためには夏場にどのぐらい奥多摩湖に水を貯める余裕を持たせるべきかは議論があると思いますが、現状のほぼ満水状態では治水の役割はほとんど果たさないことは議論の余地がないでしょう。

台風19号の時の小河内ダムの最大放流量が750㎥/秒で済んだのは、流域での雨量が300~600mm程度ととても多かったにも関わらず、1時間毎の雨量は多くの地点で最大ても40mm程度と短期間で集中して降らなかったことが原因しているのではないかと思います。

多摩川の下流域の田園調布でのピーク時の流量は6010㎥、小河内ダムからの放水量は下流域の流量の10%強なので、小河内ダムの放水量をある程度抑ることが出来ても下流域での洪水の危険を阻止かどうかは一概に言えませんが、ピーク時の下流域の流量を下方に調整することにある程度貢献することは可能でしょう。

台風19号では下流域で一部越水被害がありましたが、小河内ダムからより多くの放流があり、もう水位が50cm上昇していたら更に甚大な被害が発生したのではと思います。

参考 国土交通省 関東地方整備局 京浜河川事務所「出水概要」

最後にこれは絶対に起きては欲しくないのですが、小河内ダムが破損すると莫大な水が一気に東京を襲うことになります。小河内ダムは昭和32年完成ですので、竣工後既に60年以上経過しています。当時の技術の粋を集めて作った堅牢な建造物ですがコンクリートは劣化するため1000年安心とは言えないでしょう。余水吐きのゲートも昨年度補修工事をしていましたが、さほど厚くない鉄板(裏にトラス構造の補強)で大量に流入する水の圧力を支えなくてはなりません。小河内ダムに過度の負荷がかからない運用を切に願いたいと思います。


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